『kiss the future』


BY ゆのさま



「かわいいよな」
高耶と直江が住んでいるマンションのリビングで,それまで見ていた番組が,コマーシャルになって高耶が一言漏らした。
「だよなー。よくこれだけ集めたもんだ。」
?と思ってリビングで仕事していた直江は,ソファを占領している高耶と千秋を見るが,仕事に集中しているとでも思っているのか,気づいていないらしい。話はどんどん進んで行く。

「でもお前からこの手の話が出るとは思わなかったぜ。10人もいりゃ,一人くらいは好みのやつがいるだろー?お前のタイプはどの子だ?」
「・・・や,まぁ,みんな可愛いなと思って言っただけなんだけどさ・・・」
高耶が幾分照れぎみで言ったときにキッチンにおかわりの紅茶を入れに言っていた綾子が戻ってきた。
「なぁにぃ〜?何の話?」
「あ,ねーさん,さんきゅ。・・・コレ。」
と言って高耶が指したのは,コマーシャルが終わって再び始まった音楽番組。
特集なのか,さっき司会と話していた今人気のアイドルグループが歌おうとしているところだった。

「あ〜,モー○ング娘。?で,どれが景虎の好みなワケ?まさか最年少の子??」
アップで映った子に目を向けつつ言う綾子に
「さすがにこの歳じゃ犯罪だろー。加○ちゃんは。」
ぎゃははと笑いながら千秋が否定する。
「何よ〜!分かんないでしょー!!そーゆーアンタが実はファンだったりするんじゃないの〜?」
「いや,俺は女の子はみんな平等に愛してるからな。ひいきはない!」
「あっそ。」
威張って言う千秋に呆れたのか,千秋との会話の応酬からあっさり手を引いた綾子は高耶にはしつこく食い下がった。
「で,景虎は?」
興味津々といった態で聞いてくる綾子に
「だから俺もみんな可愛いなと思って言っただけだよ!」
と切り返す。

ホントか?と目で疑いをかけてくる二人に必死になって言い募る。
これ以上この話はヤバイ。
いくら直江は仕事に集中していると言っても,後で二人が面白がって話すだろう。
直江に「自分以外に興味を持った。」などと思われたら後がコワイ・・・。
早々にこの話を切り上げようとして口を開きかけたが,千秋の方が一瞬早かった。

「ふーん。まぁそれはイイとして,じゃあ女の子全般でいえば?例えば優しい子とか,何かあんだろー?」
「それ聞きたいわね〜♪料理ができる子とか,サバサバしてる子とかあるでしょ〜?」
妙にはしゃいだ様子で聞いてくる綾子に,高耶は頭をフル回転させて考えていた。
どう言えば直江にバレたときに穏便にすませられるか。
(優しい?・・・でもあいつ,いじわるな時あるしなぁ。
 料理はできねぇし,サバサバってゆー性格でもないしな・・・)
「顔とか,ルックスとかセンスとかー」
「何ソレ?!アンタの好みなんか誰も聞いてないわよ!!しかも顔とかルックスとか,サイテー!!」
「うるっせーなっ。お前だって顔で男選んでんだろーー!?」
「しっっつれーね!!そんなことないわよっ!!」
(・・・顔?ルックス?でも別に違う宿体でも構わなかったと思うし・・・。
 センスも別に・・・ってゆーか,あいつ高いもの買いすぎなんだよ!!
 少しは倹約とゆー言葉を覚えやがれっ!だいたいこの前も・・・)
何だか論点がズレつつあるのに3人ともそれぞれに必死で誰も気づいていない。
ただ直江一人が高耶の好みのタイプについてひたすら悩んでいた・・・。



直江が風呂から上がってきてまず真っ先に目に入ったのは暗くなったリビングだった。
(やれやれ。またこいつらは泊まりか。)
千秋と綾子は飲み騒いでリビングでそのまま寝てしまっていた。
直江が嘆息するのも無理はない。
リビングはこれ以上散らかせと言われても無理なくらいに散らかっていた。
(高耶さんがまた怒るだろうな・・・)
ついこの前も散らかし放題で飲んで怒られていた二人だ。

(それはそうと・・・)
適当に少しだけ片付けて,直江は高耶が待っているだろう寝室に向かった。
聞かなければならないことがあるのだ。さっきの一件をまだひきずっている直江だった。



「・・・高耶さん,・・・一つ聞きたいことがあるんですけど,いいですか?」
部屋に入ってきてから少し渋って言い出した直江に何となく嫌な予感がしながらも,
とりあえずベッドの上に座りなおして聞く態勢を取る。
「何?」
壁に寄りかかって手持ち無沙汰なのだろうか,
大きめの枕を抱えて上目使いに見上げてくる高耶に理性を総動員して何とか押し倒したいのを堪える。
「いえ,大したことじゃないんですけど,ただ,あなたの好みのタイプはどんな感じなのかと思いまして」
(ちっ,こいつやっぱり聞いてやがったか。)
もちろんそんな内心は隠して,にっこり笑って答えてやる高耶。
「お前。」

「は?」
一瞬の間があいて,予想していた答えと違う答えが返ってきた直江は思わず聞き返す。
「だからー,考えたけど好きなタイプってのは分かんなくてー。今好きなのは直江だから,お前かなーって思ったんだけど・・・」



あれから,シャワーを浴びているときも直江に聞かれたらどう対処するべきか考えていた高耶だった。
わざと女の子のタイプを答えて直江の反応を見るのも楽しそうだったが,
(それやるとアイツ何しだすか分かんないしなぁ・・・)
うだうだ悩んだ結果,風呂から上がった時にまだ千秋と喧々囂々とやっていた綾子が
「私は自分が好きになった人がタイプなの!!」
と言ったのを聞いて,純粋に(そーだよなー。)と思ったのだった。

(どんな反応するかな〜,コイツ。)
結構密かに楽しみにしてた高耶だったのだが,一つ誤算があった。
直江がそんなセリフを聞いておとなしくしていられるワケがない。
(この人は自分が何を言ってるか分かってるんだろうか・・・それとも誘われてるのか・・・?)
ちょっと回りつつもすぐに態勢を立て直すと極上の笑顔で高耶に言う。
「私はあなただけが好きですよ。」
言った瞬間に軽くキス。

(うっわーーーーーー・・・恥ずかしい奴っっっ!)
持ってた枕に顔をうずめて動機を必死に抑える。
言われた言葉もだけど,不意打ちのキスにドキドキした。
(初めてどころか,何十回も下手したら何百回もキスしてんのに,なんでこんなにドキドキしてんだよ!)
「・・・・・・高耶さ・・ん・・・?」
なかなか顔を上げない高耶に,怒らせたか?と思って様子を伺って,高耶の耳が真っ赤になっているのに直江は気づいた。

(かわいい。)
いまどきの子にしては珍しいくらい純情な高耶がすごく愛しいと思う。
照れ隠しで怒ったフリをしたり,抱きしめるだけで戸惑っている瞬間。
そんな一瞬一瞬にますます高耶が愛しくなっていく。

「何にやにやしてんだよ!!」
「してませんって。」
笑って言いながら高耶が間近で投げつけてきた枕を受け取って横に放る。
「照れてる表情も可愛くて好きですよ。」
「なっっ・・・・・・!!」
言葉も出ない高耶の反応に満足した直江は,近寄ってふわりと正面から抱きしめる。
一瞬抵抗するが,すぐにおとなしくなる高耶。
触れ合った場所から暖かい気持ちが流れていく。

「あなたが好きです。だからずっと側にいて下さいね。」
「・・・・何だよその理屈。」
口調はキツイがまんざらでもなさそうな様子の高耶に
「あなたがいなくなったら私は生きていけませんから。」
さらりと脅して,すっかり雰囲気にのまれている高耶をゆっくり横たえる。



自分以外の人に興味を持つな,とは言わない。
でもせめて気持ちだけはいつも自分の方を向いていて欲しい。

「・・・直江・・」
首に腕を回してキスをねだってきた高耶に微笑み返す。
自分の愛の形がどんなものかを見ることはできないけれど,
できればこの人を優しく,柔らかく包んでいるものであればいいと思う。
これから先どんなことがあっても,この人を守れるように。

まぶたに軽いキスをして。
柔らかくてクセのない髪を触って。

そして。
未来に願いをこめて深く深くくちづけた。





ゆのさまからの素敵な頂き物です(^^)
ご本人いわく「
枕抱えて上目使いの高耶さんが見たくて」書かれたそうです♪
高耶さん、滅茶苦茶かわいー(><)

ゆのさま、素晴らしい作品をどうもありがとうございました!
ぜひぜひ!また書いて下さいね(^^)