「BATTLE ROYALE2」
高耶さんお誕生日バージョン


PRESENTED BY 417



灼熱の熱砂の中を、寄りそうように進む二人。
ようやく、人の住む村へと辿りついた時、彼らは脱水症状を起して瀕死の状態だった。
村人達は、突然、迷い込んできた二人に、ひどく警戒を示した。

二人は異国の人間だった。異国民ゆえ、見慣れぬ容貌ではあるが、一人はおそらく二十代後半、もう一人はまだ少年である。
いったい、どうしてこの村に……村人達がそう思うのも束の間、見るからに足取りのおぼつかなかった少年の方が、ついにその場に崩れるように倒れ込んだ。
「高耶さん…!」
聞いたこともない発音で、男は何かを叫ぶ。そして、ぐったりした少年を抱き起こした。

駆け寄っていったのは、村の子供達である。大人達が止める間もない。
子供達は、自分達の命である貴重な水を粗末な容器に汲んで、二人に向かっておずおずと差し出した。
異国の男は、驚いたように子供達を見つめ、やがて一筋、涙を零し、やつれた顔で微笑んだ。

……ありがとう。

そう囁くと、その水を意識のない少年の口元に持っていった。少年は虚ろな瞳を開けたが、もはや自力ではそれを飲む力がない。
男は躊躇うことなく、自らその水を口に含むと、口移しで飲ませた。
少年の乾ききった唇と男の唇が重なる。
仰のいた喉がごくりと動き、確かに少年が水を飲んだのを確かめて、男はホッとしたように力尽きて意識を失った。

子供達は、意識をなくした二人から離れようとしなかった。
その姿が、村の大人達を動かした。言葉も通じず、おそらく宗教も違うであろう二人に、殉教者の影を見たのだろうか。

二人は子供達と村人達の手で、できる限りの看護を受け、先に意識を取り戻したのは、男の方だった。
それより僅かに遅れて少年が意識を取り戻した時、男は生きている彼の手を取って涙を流した。





数日後、どうにか食事を摂れるまでに回復した二人は、自分達を助けてくれた子供達が、皆、戦争孤児であることを知ると、なんともいえない表情をみせた。
子供達は皆、ぼろぼろの粗末な衣服に身を包み、靴すら履いていない者もいたが、彼らは皆、明るく、突然現れた異国の二人を慕って離れようとしなかった。
言葉が通じなくても、子供達と接しているうちに、長いこと笑顔を忘れていた少年にも、いつしか心からの笑顔が戻っていた。



あの国を脱出して一年。
こんな風に安らぐことができたのは、はじめてだった。
このまま、この村に留まって子供達と共に暮らしていこうか……そんな幻想を抱かせるほど、この村での数日間は穏やかだった。
だが、行かなくてはならなかった。
自分には、やらなくてはならないことがある。
あの時、死んだクラスメートの為にも、こうしている今も、理不尽な殺し合いをさせられているだろう、あの国の大勢の子供達の為にも。


少年の思いは口に出さなくとも、男に伝わっていた。
あなたが行くところに、何処にでも行く。
この命に代えても、オウギタカヤ。あなたを護る。



少年が村からの旅立ちを決めた朝。
折りしもその日は、少年にとって、いや、おそらく少年よりも男にとって特別の日だった。

「高耶さん……今日が何の日か、覚えていますか?」
ふいに問いかけられて、高耶は一瞬、怪訝な顔をした。
プログラムで支給されて以来、左手首に嵌めたままの軍用の腕時計に目をやり、その日付を目にして、あっと云う顔になる。
男は微笑した。
「やっぱり忘れていたんですね」
「ってか、センセ……なんで、そんなの覚えてんだよ」
照れくさそうに笑う少年を、男は眩しげに見つめた。
こんなに大切な日を、忘れるはずがない。きっと、このひとより、このひとのことを知っている。
出会った日からずっと、このひとだけを見てきたのだから。

男にとってかけがえのない、オウギタカヤと云う命が、この世に生まれ出た日……少年の肩に手をかけると、万感の思いを込めて男は云った。
「高耶さん……お誕生日、おめでとう」





それから、更に一年後。
アジアの極東に位置する大東亜共和国。
近隣諸国と国交を断って百年。世界中から孤立し、謎のベールに包まれたこの国に、変革が訪れようとしていた。

大東亜暦2×××年7月初旬。
二十四時間、途切れる筈のない国営テレビの画像が突然乱れ、画面は一斉に砂嵐となった。数秒後、変わりに映し出されたのは、白地に赤い鯨を模した旗と、迷彩服に身をみ、AK47を抱えた何人もの少年達。
カメラが、護衛と思しき黒い戦闘服に身を包んだ成人男性を従えた、一際、目を引く一人の少年をアップで捕えた。
彼は、意志の強そうなその瞳に尚も力を込め、画面の向こうにいる人々に向かって語りはじめた。

『オレ達は体制維持の為に国民から自由を奪い、子供同士に殺し合いをさせるこの国を決して許さない。オレ達は狂った現体制に宣戦布告し、国民を解放することを今日、ここに宣言する』

そして、カメラは一台のラップトップパソコンを映し出した。
黒い筐体に六色の林檎マークが入ったそれは、海外からの輸入が厳しく規制されているこの国では、入手困難な米国製である。

少年の指がenterキーに伸びていく。
『手始めに、コレを見ている役人に、挨拶がわりのプレゼントを贈る。ささやかだが、受けとってくれ』
そして、enterキーが押された時、政府のホストコンピュータと、それに繋がるすべてのコンピュータが、一斉に暴走しはじめた。

少年は力強く宣言した。
『この国の人々に真の自由を』





破られるはずのない政府のホストコンピュータは、この日、容易には復旧不能なほど徹底的に破壊された。
政府にとって何よりの打撃は、あらゆる商取引がストップしたことによる経済的損失よりも、インターネットを通じて世界中のコンピュータに、この国の最高機密の一つである、子供同士に殺し合いをさせるプログラムの実態が、否定できない証拠となって大量に流出したことである。

これにより、国連の人権保護委員会や日頃からこの国をテロ国家と糾弾している米国の介入は、避けられない情勢となった。

政府は、体制維持と国内の引きしめにやっきになった。
今回の電波ジャック、並びにサイバーテロの主犯と判明したのは、二年前、高知県土佐清水市××中学校3年B組で行われたプログラムで、当時、担当教諭だった直江信綱とともに生死不明とされていた仰木高耶である。
政府は高耶を未成年にもかかわらず、反体制運動の首謀者として、その首に多額の賞金をかけ、全国に指名手配した。

やがて、長崎沖の軍艦島を占拠して、高耶達が立て篭もっているのを突き止めた政府は、ただちに軍隊投入を決め、反体制組織殲滅にかかった。





「……仰木。とうとう奴ら、本気出したようだぜ」
アジト最上階の狙撃台。注意深く双眼鏡を覗いていた千秋が、傍らに蹲る高耶に話し掛けた。

千秋と合流できたのは、僅か一月前である。
あの時、優勝者としてこの国に残った千秋は、国内に秘かに潜伏する反体制活動家グループと水面下で合流し、自分と同じプログラムの生き残りに声をかけては仲間を集め、体制転覆の下準備を着々と整えていた。
一方、一時的に海外に逃れた直江と高耶は、各国を回ってこの国の実情を訴え、複数のルートから食料、武器などの物資や資金援助を取り付けることに成功し、二年ぶりにこの国に戻ってきたのだった。

高耶達が命を張って持ち込んだ多額の外貨と地下ルートにより、政府の手が及ぶ前に、高耶の妹美弥をはじめ、この活動に関わる関係者や支援者と、それぞれの家族の国外脱出も無事成功した。
後はこの国を、思いきり潰してやるだけだ。



千秋が顎で示した先に、すでに肉眼で確認できるほど、無数の政府船籍の灯が接近してきている。
おそらくは夜明けとともに、攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。
高耶は不敵に笑った。
「来ればいいさ。何があろうとオレ達は負けない……そうだろう?」
「たいした度胸だ、大将。お前、しばらく会わないうちに変わったな。それはそうと仰木。その後、直江センセイとは……どーなった?」
悪戯そうな声で聞いてくる千秋に、高耶は反体制活動家から、ふいに普通の少年の顔に戻って、
「ど、どーって……」
高耶の態度から、聞かずとも察した千秋は思わず苦笑した。
「なんだ、お前ら、まだなのかよ。センセイも苦労すんな。ってか、よく我慢してんな。あれから二年も経つのに……」
何やら意味ありげなことを呟く千秋に、高耶は赤くなってわめく。
「な、何がまだなんだよっ!直江はっ……」
何か云いかけて、尚も真赤になって口を噤んだ高耶に、千秋はまた笑って、
「──直江、か。まあ、名前で呼ぶようになっただけでも、進歩したってか」
「なっ、何云…っ」
「いいっていいって」

じゃれあっているうちに、見張りの交代時刻がやってきて、当の直江が現れたので、千秋はスッと立ち上がるとにやにやと笑った。
「さて、邪魔者は消えるとするか。しばらくここには誰も来ないように云っとくから、仰木、センセイ、うまくやんな。……って、明日、動けなかったら話にならないからな。せいぜい控えめにしておけよ」
「千秋!!」
ひらひらと手を振って、千秋が出ていくと見張り台には直江と高耶、二人きりになった。
千秋がバカなことを云って、変に煽ったせいで、高耶は直江の顔がマトモに見れない。
「……彼はあいかわらずのようですね」
高耶の隣にやってきて、直江は苦笑したように云った。



政府船籍の無数の灯を見つめながら、AK47を抱えて、座り込んでいる高耶の肩に、直江はそっと手をかけた。
「高耶さん……今日が何の日か、覚えていますか?」
「えっ……今日は確か23……あっ」
思い当たった高耶の顔が、照れくさそうな笑に変わる。
誕生日なんて、そんなものすっかり忘れていた。そう云えば、この男は去年も同じことを云った。
逃亡の果てに辿りついたあの砂漠の国で、「誕生日おめでとう、高耶さん」と。

千秋もそうだが、直江がいなかったら、今、自分は生きてここにいなかった。そして、もしかしたら明日の今頃は、自分はこの世にいないかもしれない……。
死など今更怖くはないが、やるべきことを果たすまでは、何がなんでも死ねないと思う。
かつてのクラスメートの為にも、これ以上、あのクソゲームで一人の犠牲者も出さない為にも。


高耶の表情がほんの一瞬、切なげに歪むのを、男は見逃さなかった。
そして、にっこりと微笑んだ。
「そんな顔をしないで下さい。あなたは何も心配することはない。この先、何があろうと俺がこの手であなたを必ず守ります。俺はその為に、あなたの側にいるのだから」

元は担任教師と生徒だった。
直江先生。最初はそう呼んでいたのに、この二年のうちに、いつしか、その呼び方は自然に名前へと変わっていた。

……直江、と。

「直江……」
「高耶さん……俺はあなたを……」
直江は、幾度となく口にしかけては飲み込んできたその言葉の先を、再び飲み込んだ。
今はまだ、云うまい。
「──いえ、何でもありません」
「なんだよ、途中でやめんなよ、気になるだろ」
ムキになって聞いてくる高耶を眩しそうに見つめて、
「いいんですよ。それより……お誕生日おめでとう、高耶さん」

そうして、直江が差し出したのは銀色に光るブレスレットだった。この島に立て篭る前に、用意していたのだろう。
裏に細かくアルファベットで何かメッセージが刻まれているが、高耶にその意味はわからない。
「……サンキュ。これ、英語じゃないよな?なんて書いてあるんだ?」
直江は微笑して、
「今はまだ、秘密です。その時が来たら教えますよ」



必ず、このひとを護る。そして、このひとと生き延びる。
このひとならやり遂げるだろう。
現体制を崩壊させ、その上に新たな世界を築くだろう。

オウギタカヤ……あなたを愛している。
あなたが生まれてきてくれたこの日に、心をこめて。

Happy Birthday.


2003.7.23.shiina


このところ例によって一ヶ月ぐらい、何も書けませんで(笑;本当にどーしよう(>_<)ってぐらい書けなかったんですが;やっぱり、この日に何もUPがないのは淋しいので…ι頑張りました(>_<)
…って、中身はコレですがι 今の私にはコレが精一杯でした…すいません(>_<) 

と云うことで、久々のBRもどきです(^-^;)
当サイトで唯一のいい人直江アゲインです!(笑)
千秋も云ってますが、この二人は海外逃亡生活で二年も一緒だったくせに「まだ」なんですの(爆v
きっとチャンスもいっぱいあったはずなのに「まだ」ですのv
今回も千秋がせっかく気を利かせてくれたのにねえ…(笑)v

最近の417は、あろうことかプラトニック萌えですv
「……欺瞞!(笑)」と云う声があちらこちらから聞こえてきそうですが、その通りです(笑)ほほほv
直江先生が高耶さんを晴れてゴチになれる日が、早く来るよう、祈ってあげて下さいv

それでは読んで下さってありがとうございました(^-^)/~