BATTLE ROYALE 
ミラバージョン3

 BY 417


「高耶さん!」
直江は咄嗟に高耶をベッドから掬いあげると、窓から死角になるよう、ベッドの影に身を潜めた。苦痛に呻く高耶を庇うようにして、侵入者に備えて、マシンガンを構える。
隣の部屋で休むと云っていた千秋も、すぐに高耶達のいる病室にショットガンを抱えて飛び込んできた。

「頭を下げろ!」
千秋が低く叫び、カーテンを閉め切った窓の僅かな隙間から外を伺う。
銃声は、高耶達に向けて発砲されたものではなかったが、確実に診療所に向かって近づいてきていた。
次いで、バタバタと云う足音とともに、誰かの悲鳴。
どうやら誰かが追われて、こちらに向かって逃げてきたらしい。
容赦なく響き渡る、ぱらららら、ぱららららと云うタイプライターのような銃声。

千秋は咄嗟に「地図貸せ!」と叫ぶと、直江が上着の内ポケットから取り出した地図の一点に指をつきつけ、
「いいか、もしはぐれたら、この鷹野神社ってとこが集合場所だ、いいな!」
直江も高耶も黙って頷く。



「……撃つなーっ!撃たないでくれえーッ!……うあああああ!」
絶叫とともに、一際激しい銃声が響いた。
凄まじい悲鳴とともに、どっと人の倒れる音。
「………ッ、」
高耶は思わず顔を覆った。その体を、直江がきつく抱きしめる。
訪れる、今までの銃声が嘘のような、静寂。



千秋が唇に指をあて、二人に声を出すなと合図し、ショットガンを構えなおす。
直江も、高耶を背後に庇いつつ、マシンガンを構える。
診療所の窓の外を、内部の様子を伺うように、通りすぎていく人影。
誰かが、ドアノブに手をかけた。
ガチャガチャと、強引にこじ開けようとする相手に、三人は息を止める。

やがて、どうあっても開かないと諦めたのか、静かになったと思いきや──次の瞬間、突然、窓が割られて何かが投げ込まれた。



手榴弾。



弧を描き、それが床に落下する直前、千秋が叫んだ。
「逃げろーーーッ!!」


直江は咄嗟に全身で、高耶を庇いながら、できる限り部屋の隅に飛び退った。
鼓膜が破れそうなほどの爆音と爆風。
「………ッ!」
床に傷ついた全身を打ちつけ、高耶は吐きそうな程の激痛に呻いたが、それでも自分の手が何か生温いものに濡れたのを感じて、ハッと目を見開いた。
見れば、自分を庇った直江の黒いジャケットの背に、割れたガラスの破片が、無数に突き刺さっていた。
「……せ、先生ッ!」
だが、すぐに頭上を、ぱららららと云う音とともに無数の銃弾が降り注ぐ。
直江は高耶を頭ごと抱き込み、できるだけ銃口から死角になるよう、再びベッドの影に身を伏せた。
「野郎ッ!」
千秋が負けじとショットガンで応戦すると、こちらにも銃があることがわかり、一瞬、銃声は止んだが、それでも相手はひるむことなく、室内に向けてマシンガンを滅茶苦茶に乱射してくる。この狭い室内では、どうぞ殺して下さい、と云っているようなものだ。

(このままでは三人とも殺られる……!)

次の瞬間、直江は千秋に向かって「高耶さんを頼む!」と叫ぶと、マシンガンを片手に窓を突き破って表に飛び出していた。千秋は前回プログラムの優勝者で、この島から出る方法も知っており、少なくとも自分より、確実に生き残る術を知っている。
直江にとって、この島で高耶をまかせられるのは、彼しかいなかった。



「先生ッ!」
「バカッ、センセイ無茶すんなっ!」
背後で二人が叫んだが、直江は必死だった。今の直江には高耶を助ける──それしかなかった。
突然、窓を突き破り、飛び出してきた直江を見ても、相手の生徒はまったく表情を変えることはなかった。
「……兵頭……ッ!」
直江が名前を叫んでも、兵頭は無言でマシンガンを乱射してくる。
破片の突き刺さった背中の痛みなど感じている余裕もなく、直江もマシンガンを背後に向けて乱射しながら、少しでも診療所から遠離ろうと、必死に走る。
二人のマシンガンから、ぱらららら、ぱららららと云うタイプライターのような銃声が、全島に響き渡る。



先に直江のマシンガンの弾が尽きた。
数発の銃弾を体のあちこちに喰らい、直江はもはや絶体絶命だった。

断崖絶壁まで追い詰められた直江に向けて、兵頭がとどめをさそうした瞬間、直江は自ら崖下に身を踊らせた。
駆け寄った兵頭が、下を覗き込むと、そこには荒れ狂う海があるだけで、直江の姿はなかった。打ちつける波涛を静かに見下ろして、兵頭は無言のまま、その場所を後にした。

残っている生徒を、すべて片付ける為に。



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