BATTLE ROYALE 
ミラバージョン 幕間

 BY 417



数名の女生徒達が立て篭っている、燈台の一室。
彼女達は皆、それぞれがそれぞれの方法で、突然追い込まれた極限のこの状況と必死に闘っていた。


日頃から料理好きを自称していて、自ら率先してキッチンに立ち、レトルトのシチューを暖める者。
8人は座れそうなダイニングテーブルの椅子に座り込み、深刻な表情で頭を抱えている者。
部屋の隅に、何かを握りしめたまま、半ば放心したように座り込んでいる者。



椅子に座って、長い間、押し黙っていた生徒が、突然、口を開いた。
「あたし達みんな……明日になったら死んじゃうんだよね……」
すぐに、他の生徒が宥めるように云う。
「そんなことないよ。みんなで一緒にいて、考えれば何とかなるよ」

いつもと変わりないように、平静を装い明るく振る舞おうとする者と、頭を抱え、啜り泣く者。
ゲームが始まって2日目の夜──彼女達に残された時間は、あと1日だった。




ドアが開いて、委員長の浅岡麻衣子が嬉しそうに現れた。その後を追い掛けるように、それまで交代で見張りに出ていたジャージ姿の生徒が飛び込んでくる。
日頃から明るく、クラスのムードメーカー的存在のその生徒は、首からかけていたサブマシンガンをテーブルに投げ出すと、親し気に浅岡麻衣子に抱きついた。
「麻衣子ー!直江先生、意識戻ったんだって?よかったじゃん!誰かさんはー、もうずーっと前から直江先生にメロメロだもんねえ」
「やめてよー」
冷やかされ、それでもまんざらでもなさそうに、浅岡麻衣子は頬を染めた。




直江先生が助かった──それを聞いて、それまで部屋の隅に放心したように座り込んでいた生徒の体が怯えたようにびくん、と震えた。
彼女は、直江が、恐怖のあまり発狂し、斧で襲いかかってきた男子生徒を、説得は無理と判断してやむなく射殺した際、偶然近くにいて、殺すそのシーンだけを目撃してしまっていた。彼女にとっては直江はもはや、優しく生徒思いだったかつての担任ではなく、ただの冷酷な人殺しでしかなかった。

(このまま先生が助かれば、きっと次は自分が殺られる……先生を生かしておいては駄目だ)

死と直面した極限状態の恐怖から、追いつめられた彼女の頭には、直江を殺すことしかなくなってしまっている。
彼女がずっと、秘かに握りしめている小さな瓶のラベルは、「POISON」。
掌に隠し持てるような、口紅ほどの小さな瓶に入った毒が、いったいどれほどの殺傷力を持つのか、彼女にはわかるべくもなかったが、それが、このゲームで彼女に特殊警棒とともに支給された、誰にも内緒のもう一つの「武器」だった。




シチューを暖めていた生徒が振り向いて、「ご飯できたよー!」と笑いかけた。レトルトと思えないような、ホワイトソースのいい匂いが室内中に立ち篭める。
それまで放心したように座り込んでいた彼女は、掌の中の小瓶を握りしめて、勢いよく立ち上がると、
「あっ、あのっ、あたし!先に、先生のとこにご飯持って行くね!」
と叫んで、シチューの入った鍋に近づいた。
皿に盛ったシチューに、辺りを見回し、みんなが見ていない一瞬の隙を見計らって、こっそり瓶の中身をぶちまけ、すぐにわからないようスプーンでかき混ぜる。

皿をトレイに載せ、そそくさと部屋を出ようとしたところに、先ほど浅岡麻衣子に抱き着いたお調子者の生徒が、「お先ー!」と叫んでその皿を奪うように取りあげると、椅子にどかっと座り込み、薬を混ぜた生徒が制止する間もなく、スプーンで一口掬って飲み込んだ。
「んー、おいしーっ!」
「やーだ、もう、先生が先だよー」
浅岡麻衣子が苦笑するが、すぐにその顔は驚愕に変わった。
シチューを食べた生徒が両手で口元を押さえ、突然、激しく苦しみ出したのだ。

「やだっ、ちょっとどうしたの?」
「しっかりして!」
「ううっ、ぐっ……」
猛毒入りのそのシチューをもろに口にした生徒は、全身を痙攣させて激しくもがき、のたうちまわった挙げ句に、口から帯のように鮮血を吐いて、シチューの皿に顔を突っ込んだままあっけなく事切れた。
「キャーッ!!」
友人の、突然のあまりに凄惨な死を目の前に、上がるいくつもの悲鳴。
「何これ……何なの?」
「何があったの?!」
「嘘でしょ……」
「死……死んでる……ッ!」


自分が入れた毒が原因で、目の前で友人が血を吐いて即死した。その様子を目のあたりにした生徒は、顔面蒼白で立ち尽くしている。彼女は心の中で叫んでいた。
(あたしのせいじゃない、あたしのせいじゃ──!)



「誰がやったの!」
最初に武器を手にしたのは、ずっとテーブルの隅に座って頭を抱えていた生徒だった。
それまで、和やかだったその場所が、一瞬のうちに修羅場と化した。



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