BATTLE ROYALE 
ミラバージョン 6

 BY 417




今度こそ死んだと思い、咄嗟に目を瞑った高耶に、またしても最後の衝撃は来なかった。
ハッと目を開けた高耶の前で、兵頭がマシンガンを構えたまま不思議そうな表情で突っ立っている。
よく見ると、その鼻の横に小さな穴がぽつんと開いていた。
「………ッ」
兵頭はマシンガンを構えたまま振り向こうとしたのだが、それは叶わなかった。なぜなら背後から後頭部を撃ち抜かれて、すでに彼は事切れていたのだった。



力を失い、崩れ落ちる兵頭の背後に、サブマシンガンを構えた直江が立っていた。
高耶が目を見開いた。
「せん、せ……!」
直江はいったいどこをどう歩いてきたのか、髪は乱れ、スーツはぼろぼろになり、その下のシャツも包帯も血でどす黒く染まって、見るも無惨な状態だった。

「高耶さん……」
高耶の顔を見た途端、直江にようやく笑が浮かんだ。全身から力が抜け、その場にどっと音を立てて倒れ込んだ。
「先生ッ!」
高耶は叫んで、痛む脚を引きずりながらも駆け寄ると、直江の上体を抱き起こした。
「先生……ッ、直江先生ッ!」

直江は生きているのが不思議と云うほど酷い様子で、その顔面は蒼白だったが、それでも高耶の今にも泣き出しそうな顔を見て、ふわっと微笑んだ。
「高耶さん……よかった……無事だったんですね……迎えに……、来てくれたんですか……?」
直江の胸に顔を埋めたまま、高耶が頷く。
「高耶さん……怪我、は……」
自分よりはるかに酷い傷を負いながら、それでも自分を気づかう直江に、高耶は思わず、直江の上体を抱きしめ、声をあげて泣いた。
「泣かないで……高耶さん……大丈夫だから……」
間近に生きた高耶の体温を感じて、直江は微笑み、血に濡れた手で高耶の頬を覆うと、囁くように云った。
「俺が……ずっと、あなたの側にいて、あなたを守るから……大丈夫だから……こわくないから……」
「……直江……ッ、」

戻ってきた直江を抱きしめ、啜り泣く高耶。
二人の様子を、千秋が安堵の笑を浮かべて見つめていた。



***



それから間もなく、午前6時の放送が流れた。
織田によって読み上げられる、死んだ生徒の名前の羅列。
その中には燈台で死んだ女生徒達や、高耶に包丁で切りかかった生徒、高耶によくしてくれた友人達、そして、兵頭の名があった。

マイクの向こうで、織田が笑った。
『……よくここまで頑張ってきたな、仰木、千秋。──それに、直江先生。わかっていると思うが、最後の一人になるまであと少し、がんばれよ』



この放送で、初めて彼らは現時点でこの島で残っているのは、自分達三人だけだと云うことを知った。
クラスメート達は、みんな死んでしまった──

とりあえず、これで武装の必要はなくなった。
だが、これで終わったわけではなく、むしろ脱出しようとしているこれからが本番だった。
千秋によれば、脱出は夕方、薄暗くなってからでないと難しいと云うので、とりあえずは先ほどの神社まで戻って、体を休めることにした。
三人ともそれぞれ傷を負って満身創痍だったが、特に直江の容体は目に見えて悪く、高耶は千秋が診療所から持ち出した、残っていたありったけの薬で手当てし、つきっきりで看病した。



その日の夕方。半日でも休めたことと、何より高耶に再び会えたことから、半死半生だった直江の容体は、ごく僅かだが回復していた。

もうすぐ日が暮れると云う頃になり、脱出の準備をするからと千秋に促されて、直江は苦痛を堪えてどうにか起き上がった。
千秋が残っていた武器と弾薬と水を詰めたバッグを持ち、高耶は直江に撃たれていない方の自分の肩を貸し、直江も高耶に負担をかけることがないよう、痛みを堪え、必死で歩いた。


神社を出て、千秋に促されるまま、三十分ほど歩いただろうか。
三人は島全体を見渡すことのできる、高台に来ていた。
大勢のクラスメートが命を落とした島。
取り囲む広大な海も、彼らの流した血で染められたのではないかと思うほど、見渡す限り、見事な夕日の朱に染まっている。
三人はしばらく無言で、水平線に消えて行く夕日に見入っていたが、完全に日が落ち、辺りが薄闇に包まれ始めた頃、ふいに千秋が口を開いた。

「最後にいい景色が見れてよかったな。仰木、センセイ」



その言葉に、二人が思わず千秋を振り向くと、千秋は二人に向けて、ハンドガンを構えていた。高耶の目が、信じられないと云うように見開かれる。
「千秋ッ……!」
千秋は薄笑いを浮かべて、
「教えてやるよ、仰木、センセイ。このゲームで生き残る唯一の方法が、コレさ。この島から抜け出す方法なんて、本当にあるとでも思ってたのか?お前ら二人はバカみたいに俺を信じすぎた……おかげで、今回は楽だったぜ」

直江の顔が怒りに歪む。その全身で高耶を背後に庇うが、武器はすべて千秋の抱えているバッグの中だ。
「悪く思うなよ、センセイ。ゲームで生き残れるのはたった一人……そういうルールなんだから仕方ないだろ?あんたの大事な仰木と二人、仲良く送ってやるから許してくれよ」
高耶は、裏切られたことに対する怒りより、悲しみに顔を背けた。

千秋の顔が、真顔になった。
「残念だよ、仰木。こんなことにならなきゃ、お前とは仲良くやっていけそうだったのにな……安心しな。医者の息子だって云っただろ。何処を撃てば楽かぐらい、わかってる。お前らが苦しまないよう、ちゃんと一発で仕留めてやる」

千秋は手にしたハンドガンの引き金に指をかけた。
「じゃあな。仰木。センセイ。──さよならだ」



──薄闇の中、二発の銃声が響き渡った。

大東亜歴××年、土佐清水市××中学校3年B組に於ける第××回プログラム。
男子14番・千秋修平、優勝。


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