「蜘蛛の糸」


BY 417




ある日の午後のことでした。
今空海の高耶さんが天上の蓮池の縁に佇んでいると、雲の切れ間から、ぼろぼろの黒服姿の男が地獄の底で蹲っているのが見えました。
(あの男は、確か…)
他人の肉体を奪う、換生の罪で地獄に落ちた男です。

高耶さんは、なぜか男を見た瞬間、胸が苦しくなるのを感じました。天上人の自分が、こんな風に心を乱されるのは、はじめてのことです。
しかも、男が愛する誰かを探す為、禁断の換生をしてまで長い時を生き続け、その罰として地獄の底で愛する者と決して出会うことのない永遠を生きなければならないと知って、男をたいそう哀れに思い、蓮の葉に止まっていた蜘蛛の糸を男に向かってお下しになりました。



天上から、突然、自分の元へ真直ぐに下ろされた、まばゆいばかりの蜘蛛の糸に触れた瞬間、蹲っていたその男──直江は確信しました。
これまで、彼のいない永劫とも思える長い生を生き、地獄の底で血まみれになりながらも、一瞬たりとも忘れることはなかった、あのひとのぬくもり。
(あなただ……)

糸に向かって我先にと、一斉に群がる人々を押し退け、直江はただひたすらに糸を辿って天上へと昇っていきます。
やがて雲の合間から直江が天上へと昇りきった時、糸はふっつりと切れ、後に続いていた人々は悲鳴とともに再び、地獄の底へと落ちて行きました。



白装束を纏い、まばゆいばかりの光に包まれた高耶さんに向かって、ぼろぼろの黒服の男がまっすぐに手を差し伸べました。
「景虎様……」
「───」
男に、そう名前を呼ばれた時、高耶さんは己の封じられた過去を思い出したのでした。

景虎は自分、そして直江はその部下で愛人(爆)
かつて冥界上杉軍の名代として信長との戦いに臨み、敗れた自分は、覇者となり、神となった信長に記憶を消されて天上へ召され、二人が二度と会えぬよう、直江は地獄へ落された──男が、禁断の換生をしてまで長い間、探し続けていたのは、この自分だったのです。



「──直江……ッ、」
高耶さんが、震える声で男の名を呼ぶや否や、男は細い体を雲のベッドに押し倒して(コラ;)離れていた長い時を埋めるかのように、深く深く繋がりました。
押し入ってくる肉の刃に体を割られて、高耶さんはきつく歯を食いしばります。
「景虎様…景虎様ッ……景虎様……!」
無惨に裂かれた白装束の合間から、露になった肌に記されていく刻印。
「なおえっ……」
高耶さんが流した破瓜の紅は、内腿を伝って白装束だけでなく天上の雲をも紅く染めました。



その様子を見ていた信長は、やれやれと溜め息をつきました。
記憶を無くした景虎に今空海と云う仮の記憶を植えつけ、天上の美獣として手許に置き、ようやく手に入れたと思ったのに。

過去を取り戻した上、男を知ってしまった高耶さん(笑)を、これ以上、天上人として側に置いていくわけには行きません。
泣く泣く信長神は二人を地上へと帰したのでした。

こうして再び巡り逢い、地上へと降りた二人は、深い霧に覆われた山荘に永住の地を見つけ、二人きりの永劫を生きたと云うことです。


おしまい


自分で書いたの忘れてました。ほんとに何書いてんだか、自分(笑;

♪大丈夫大丈夫大丈夫だよねえ@筋少…を口ずさみながら>自分にそう言い聞かせながら(笑;原作終了直後に書きなぐったものです(笑;当時の精神状態がわかるな(笑;

このところ、忙しくて何もUPできないので…何もないよりは、ということで…;書きたい気持はあるので…待っていて下さいです(^-^;)